エレベーターの扉が閉まる間、私はずっと下を見ていた、振りをして、
無遠慮な視線を堪能していた。男の視線を無視しながら体に貼り付けることほど、よいものはない。一層のこと、この場でスカートをまくりあげたらどうだ。どうせ、少年には伝わらない。どんなサインも、彼のためのものなのだとは気づくはずもない。

部屋に戻る。朝のままに乱れた布団をさりげなく整える。掛け布団のはしを三角に折って初めて、自分の媚に気づく。下へ向かうエレベーターの中でスマホの「タイ語翻訳」ページを開く。「部屋に来ませんか?405」。

絶対に来ることを知っていた。もう私の食べものなのだから。勝手にして良いのだから。そんな風にチャイムが鳴るのを待つ。扉を開ければそこには男が二人。どんなつもりで、ホテルのガードマンがゲストの部屋を夜中に訪れるべきか、説明しておくべきだったか。部屋の電球でも換えてくれそうな顔をした男二人に困った顔をしてみせる。簡単な英語すら通じないのに、こんな複雑な状況はすぐに伝わる。無垢にもついてきた友人を帰して、私の食べものは部屋に入り、唯一の椅子であるベッドに腰掛ける。それで、よろしい。ビールを手渡し歳を尋ねる。「TWO」と言われて、参ったな、2歳かよ。と頭を掻きながら黒い手からビールを奪って、唇を寄せる。硬直する少年。そんなつもりじゃないんだ、と、英語が話せなたら言うだろうか。聞いてみたい気もする。じゃぁ、あなたは夜中に女の部屋に何をしに来たのだと……。

若いころに、男たちに散々言われた言葉だった。「お前、じゃぁ何しに来たの」「だって、なにもしないって言ったじゃない」その後はお決まりの、「わかったよ、じゃあ帰れよ」。全然分かってない、それは私だった。彼らは正しかった。結局それ以外に用事なんてないのだから。そういうふうに、わたしと彼は「用事」を果たす。暑い国の男は、たいていキスがうまい。唇が厚くて唾液が少ないから、むっちりと吸い付く互いの口腔を、一つのものとして分け合うことができる。瞳はどんな色もない。すこし驚いているようだけれども、あきらめているようにも、当然のことをしているようにも見える。いずれにしても好色な色はない。しかしながらブラジャーをずらそうとする手つきは野蛮で、ワイヤがアンダーバストに引っかかって痛くてたまらない。「ホックを外してからじゃないと、だめよ」そんな言葉も通じるはずもない。わたしは誰も知らない部屋で、言葉も通じない見知らぬ男と抱き合おうとしている。

少年は、彼の腰にまたがった私をよしとはせず、ベッドに寝かせようと躍起になっている。もう少し年を取れば、またがった女を下から眺める余裕がでるだろう。そのときわたしはもういない。いずれにしても、彼の好きにされるのがいい。5分前まで彼は、退屈な仕事を終えて深夜に帰る金もないからとホテルのフロントの椅子で寝ようとしていた二十歳のガードマンだった。彼はどう思っているのだろう。ろくに目線すらかわさなかった女が、突然にセックスを求めていることについて。おそらくは、ネジのとんだ欲求不満な異国の女だと思ったことだろう。そのとおり。あなたじゃなくてもいいんです、あなただってわたしじゃなくてもいいでしょう? 普段のセックスじゃたいして濡れもしないのに、もうぬるぬるで仕方ない。愛撫の技巧など脳内麻薬の前には太刀打ちできるはずもない。この気軽さが良い、だらしなさが良い、わたしは、だれとでも、やりたいんだ。

閉じた足の間を、少年の膝が割って入ると、子どもは急に大人のように見えるから不思議だ。挿入の直前には、どの男も皆同じ眼の色をする。真剣というのは、挿入直前の男をさしていう言葉なんだろう。わたしは呼吸を整えて待つ。抵抗なんてするはずない。研いだ凶器に片手を添えて、私は一刀両断にされる。目の据わった男に殺される瞬間ほど求めるものはないよ。形勢は一気に逆転して、わたしは彼のものになる。挿入の本質は、どうしたって支配と服従しかない。わたしはいつだって服従を選ぶ。甘いこびは少年王の気に入るように。研ぎ澄まされた凶器に、わたしは……。

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