「そこに座って」

そんな風に命令をされるのが好きだ。
ただ、うなづいて従えばいい。

怖くない、沸き立つ期待に唇をかんで、
暖かく湿った肌を隠すようにして、
彼の前にひざまずく喜びを、乾いた喉でごくりと伸びこんで、
食道から胃に落ちていくのを、
空っぽの胃で感じていればいい。

何も言わない、うなづくようにして、
当然のように、驚くほど穏やかな目で私を見下ろして、
ゆっくりとシャツのボタンを外す男を見上げている。

ほれぼれ、と言えばそうなのだろう。
彼が主人然としていることに、当然のように正しい役割を、
初めての夜に演じていることに、
言い知れぬ酔いと、完全な満足を覚えて、始まってもいないのに足先までも痺れてしまう。

なるほどこれが相性なのだと、私は黙ってうなづく。
奪う性と奪われる性のロールプレイに、
ある夜の突然の出来事に、
3時間前に会ってONS。簡単の極み、それの何がいけないのかわからない。

片足を引けば、当然のように一歩踏み込まれて、
気づけばくるりとターンさせられている。
完全なリードと息の合ったポジションチェンジは、なるほどダンスに似ている。

この人は、私の欲しいものがわかるし、
それを与えることに喜びを感じている。

それ以上のことがあるのかしら。
ただ女は受け取ればいいのだ。奪われる振りをして、熱と欲と強さを食めばいい。

スムーズな滑り出しは、スムーズなエンディングへと難なく進む。
ああ、私のものにはならなんだなと、
それだけが残念だけれども、

退屈なパーティで、ふと目をやればそこには、
意志を持った瞳があって、当然のように引き寄せられて、
その瞳に私の欲望を映させたいと強く思った、だからそうした。そして、終わった。
奇跡のような一瞬の生のきらめきに、
いつまでもとらわれている必要はないと、私は今自分に言い聞かせるのだけど。

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